変奏と増殖 −日本水墨画へ

2018年 NHK日曜美術館出演時の文章
 宋・元、中国大陸から渡ってきた水墨画は、日本の湿潤なる自然風土に馴染み、深く根を降ろし、広く社会の各階層に迎えられました。そこから「受容」・「模倣」、「形態の伝承」といういくつかの段階を過り、「変奏」・「増殖」の道程へ進み、そして日本人の持つ水墨画独自の精神性が生まれました。それこそは「請来美術」としての水墨画への「再発見」・「再認識」と考えます。
狩野元信の「真・行・草」画体の創立、長谷川等伯「松林図」ような「逸格」表現、水墨画の「禅」の重なり、そして宗達・光琳には無作意な墨痕水跡が「形」に変身、作意にして無作意な自然形態を水墨画造形に持たせる領域に達した「溜し込み」技法、更に、近代水墨画の巨匠横山大観は絹本か紙本か、「真」の水墨画への模索に執着しました。

 な水墨画の変遷は、東アジア、まだ世界的視野で現代芸術を考える上で重要な要因の一つであったと思います。水墨画は、過去の農耕時代の産物ではなく、文士賢達私有物でもなく、水墨画が持つ無尽蔵の「心象世界」は、現代社会に豊かな人間性に包まれた多元的人間像を現す芸術様式の一つであるのです。日本水墨画名作の数数が示した「変奏」・「増殖」は、その根底から生命力の旺盛を示したものであり、そして、私の糧ともなったものであります。
今回、ここに展示された私の模写作は、日本水墨画への理解を深め、修業を重ねた私の道程でもあります。NHK日曜美術館の番組に出演させていただく機会を得ましたことによって、学習と研究を重ねる契機をいただけたものと思っています。
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