「現代における東洋美術の伝統」 おわりに

1996 筑波大学修士論文

目次

おわりに

私にとって、東洋伝統美術とは何か、現代におけるこの伝統はなぜ必要か、必要であるとしたら、この伝統をどうしたら現代東洋絵画の制作に取り入れるのか、等、いくつかの問題が、長い年月ずっと頭のなかにあった。

 私にとっては、東洋の伝統絵画の勉強が不足で、特に芸術理論について、まったく素人てあるが、しかし、私は東洋絵画の実践者であること、つまり、過去に中国の伝統絵画を、現在は日本画を制作しつづけてきた一人の制作者であること。曾つて、私の先生は、東洋絵画の理論と実践に対して、東洋絵画を描かない人は、あまり理論を論じることはできないでしょう、と私に言った。私も同感であった。
 この論文は、アルンハイムの美と創造の心理学による視知覚分析方法で、東洋絵画の諸相を研究したものであるが、私自身、絵画制作者としての立場から、自分の直感と経験も含めて述べたつもりである。
 時間があれば、もっと系統性があるように書こうと思っていたが、結局雑になり、頭に浮かんできた何点かについてのみ述べることになってしまった。あまりにも無責任であるが、それに対しては、許してもらいたい。私もこれからまた絵画を制作しながら、ひきつづき東洋の絵画伝統を研究していくつもりである。
 岡倉天心の〈東洋の理想》の著書の始めに、“アジアは一つである”とある。私もそう思う。東洋的とは、生命的で精神的であり、欧米と異質な世界観がある。絵画の過去、現在、未来も同じであると思う。東洋の「真」なる伝統を探り出し、現代に慟らかせようと、東洋の美術に熱中しているわれわれは、いつかきっとこの真に近づく。きっと現代東洋絵画をつくりだす。それこそがこの論文の狙っている私の心である。




1996年元旦 中野新居にて 大竹卓民
一覧に戻る 回到索引